埴谷雄高全集 別巻『資料集・復刻死靈』

ここは、埴谷氏の病理解剖の巻である。口絵写真は１６頁にわたり、亡くなる前の自宅スナップから遡って尋常科図画習字の数点、幼少青年期、壮年期の文学者仲間との旅行会合写真を加え、紙上原稿写真から、揮毫・色紙に至る。該巻の構成は以下の通り。年譜・作品目録・対談・対談一覧・著者目録・埴谷作品の翻訳・資料・参考文献・索引である。「年譜」では埴谷氏の生年より家族構成の有為転変、思想感情の人となりを経て、没年をもって閉じられる。年譜中、二十二歳で豊多摩刑務所に未決収監されるが、刑務所の独房で西田哲学とカントに出会い「自同律」の疑義に芽生えライフワーク「死霊」の嚆矢となった話は有名である。「座談」では、昭和３５年の「戦後文学の批判と確認」第５回の様子が掲載され、鶴見俊輔、吉本隆明、本多秋五他の出席者による、埴谷雄高ーその仕事と人間がもっぱらの話題。埴谷氏の扱いを巡って毀誉褒貶、仲間うちとは云え持て余す感なきにしも非ずである。概観として該巻資料集は全集本の案内となり、現時点で埴谷雄高の骨格を知る最善の手引書である。そして、別巻「復刻・死霊」発刊当時の「近代文学」連載の部分掲載をまとめ、全４章の合本として構成されている。紙質も往時の雰囲気を生かすかのように藁半紙の色合い、手触りをもって二色刷りしたと奥付きにはある。当然旧字旧カナである。