うっかり鉄道 (幻冬舎文庫)

能町さんは関東の鉄道路線図をそらで書けるんですってよ。一般人の私からすれば、それって鉄道マニア？と思うのですが、能町さん的にはこの程度では鉄ちゃんとは名乗れないと謙遜しておられます。そして、そのスタンスがこの本を読みやすくしています。バリバリの鉄ちゃんが書いた本は私ごとき一般人には「だから何なの？」で敬遠するしかないのですが、能町さんが目をとめる箇所は私にもわかる。国鉄の（と、あえて言いたいJR）琺瑯看板。和寒の琺瑯看板は駅の中に15わっさむもあり、秩父別の琺瑯看板は10ちっぷべつ。そして、レトロを狙ってわけでもないのに、いつの間にか取り残されてしまった岳南原田駅の古い駅舎。列車の本数が少ない場所では一駅や二駅は歩いてしまう力技。一方でオシャレカフェも嫌いじゃない能町さん。鎌倉の長谷駅では「かうひいや3番地」でのんびりしてしまい。肥薩線では「ぶけぐら」「さんぽカフェ」とオシャレカフェ巡りをしていて電車に乗り遅れそうになる。でも「いさぶろう・しんぺい号」の前で駅弁売りのおじさんを撮影するのは忘れない。正直、オシャレカフェばっか歩いてる本て「ケッ！ハイセンスぶりやがって」と田舎者の血が騒いでしまうのだけど、そこまでオシャレに徹底していないほど良さがある。全てにおいて心地よく読みやすい本でした。と、最後まで読んでから「あれ、私前にこの本読んだ？」と気づくのでした。単行本の時に図書館で借りて読んだような……まあ、つまり、文庫化される頃には全て忘れてしまい、何度でも楽しめるお得な本です。